名雪さんと商店街で晩御飯のお買い物をしたその帰り道、まだ若いカップルとすれ違った。
ううん、女の人はお腹が大きいから2人は夫婦だよ、きっと。
お婿さんと道を歩いているだけなのに、そのお嫁さんはとっても幸せそうに見えた。

「ねえ、名雪さん。今の人、かわいいお嫁さんだったね」
「もうすぐお母さんになるんだね、あの人。なんだか、わたしも赤ちゃんが欲しくなっちゃっ
た」名雪さんが、微笑みながら言った。
「とってもうれしそうだったね、あの2人。やっぱり、赤ちゃんができたからかな?」
「うん。わたし、そうだと思う・・・」
「うん、そうだね・・・」
あの人たちの間に生まれてくる赤ちゃんは、きっと幸せだよ。・・・ボクもそうだったのかな?
ボク、何も覚えてない。でも、尋ねられる人も、もういない・・・。
「ん・・・あゆちゃん、どうしたの?」
「な、なんでもないよ、名雪さんっ。アハハ・・・」

道すがら、ボクは、ふとあることを思いついて、口にした。
「ねえ、名雪さんがお腹にできたとき、名雪さんのお父さんとお母さんってどうだったのかな?」
「え、わたしができたとき?・・・うーん、どうだったんだろう?」
「きっと、お父さんも秋子さんも大喜びしたとボクは思うよ。うん」
「そ、そうかな?」名雪さんが照れている。

「秋子さんに聞いたら、お話ししてくれるかな?」
「わ・・・なんか、恥ずかしいよ。あゆちゃん」
「名雪さん。帰ったら、ボク、秋子さんに聞いてみていい?」
「わ、聞くの?」
「ねえ、ボク聞きたいんだよ」

「うん、いいよ。じゃあ、帰ったら2人で聞いてみようね」名雪さんが微笑んで言う。
(あゆちゃんがそうしたいのなら、わたしも大賛成だよ)ボクには名雪さんのそんな気持ちが
伝わってくるような気がした。
ありがとう、名雪さん。ボクにやさしくしてくれて・・・。
ささいなことだけど・・・でも、名雪さんのちょっとした心遣いを思ったら、少し涙がにじん
じゃった。

「わ、うれしいっ。じゃあ、早く帰ろっ」ボクは、名雪さんから買い物袋を奪い走り出した。
半泣きの顔を見られたくなかったこともあって・・・。

家に帰り、冷蔵庫に買い物の品をしまったところで一休み。秋子さんがお茶を入れてくれる。
話題が切れたところで、ボクと顔を見合わせた後、名雪さんが例の質問をしてくれた。

「ねえ、お母さん。わたしがお腹にできたときのお父さん、お母さんはどんなふうだったの?」
秋子さんに尋ねる名雪さん、ちょっとだけまじめな顔してる。
「あら、どうしたの、いったい?」楽しそうに驚く秋子さん。
「さっきお買い物の帰りに、お腹の大きいお嫁さんを見たんだけど、とっても幸せそうだったんだよ。
だから、ボク、秋子さんにもっと詳しいお話を聞きたいなって・・・」
「ね、お母さん。いいでしょう?」
「そうね、そのときのわたしは幸せでした・・・って言えるかしら、ウフフッ」そう言う秋子
さんは、照れている・・・なんだか、かわいい。

「そんなこと話すなんて、ちょっと照れるんですけど・・・聞きたいですか?」
「うん、聞きたい聞きたい」「ボクも聞いたいっ」
名雪さんとボクは、大はしゃぎで話をせがんだ。

「いいわ、お話ししましょうか・・・」思い出すような目をして、秋子さんがお話しを始めた。
名雪さんとボクは、どきどきしながら、話に耳を傾ける。

「まだ、春って言っても暦の上だけの寒い頃でした。お父さんが仕事から帰ってきたので、わ
たしはお台所で料理を始めたの。だって、作り立てを食べて欲しかったから。
 お父さんは、和食が好きだったから、お魚や、お芋の煮転がし、鍋物だったかしら・・・下
ごしらえしておいたもので、料理を作り出したの。そんなわたしの料理のできるのを、お父さ
んは待っていました。・・・いえ、そうしているいるはずだったのに、突然、わたしの後ろに
来てこう言ったんです・・・」
ここまで言うと、秋子さんははにかみながらうつむいた。
「ね、なんて言ったの?」「秋子さん、教えてよ〜」ボクたちは、お話を催促した。

・・・顔を赤くして、秋子さんが口を開いた。
「お父さんは、やさしくわたしを抱きしめて、耳元でささやいたの。『・・・しよう、秋子。
いいだろっ?』って。そう言うと、お父さんはわたしのおっぱいを揉みはじめたんです」
「わ・・・」「うぐ・・・」

「わたし、『あんっ・・・お料理の邪魔をしないで』って・・・。そうしたらお父さん、『秋
子は料理していていいよ』ですって。無茶だと思わない、あゆちゃん?」
「う、うん・・・」うう、話しを振られても、ボクちょっと・・・。

「あの人ったら、おっぱいを揉むだけじゃなくて、わたしの耳も甘噛みしだすし。ねぎを刻も
うと頑張っているのに、わたしのスカートの中に手を入れてくるし。わたし、必死に料理をし
ようとしたんですけど、途中からわけがわからなくなっちゃって・・・。
 でも、わたし、手にもつ葱を一生懸命、刻もうとしてたのよ・・・。どうしてかしら、おか
しいわね、くすっ」
うぐぅ・・・よくわからないよぅ。

「『ここは、・・・んっ・・・危ないわ。ね、あなた、あっちに行きましょう』火も包丁もあ
るから、わたしが必死に言っても、お父さんは聞いてくれないの。『秋子のエプロンをつけた
後ろ姿がそそるんだ、ダメだっ』て言い張って・・・。お父さんって、意外にわがままだった
のよ、名雪」
「うう・・・わがままなのかな、それって・・・」涙目の名雪さんがつぶやく。
ボクも、わがままとは違うと思うんだよ・・・。。

「しばらく・・・そうね、10分くらいお台所で立ったままだったかしら。その後、お父さん
ったら『秋子、流しのへりに手をついて』って」
「ひいっ・・・」「うぐ・・・」

「わたしも結婚したばかりでしょう。素直に『はい、あなた』って、手をついたの。するとお
父さんは、わたしのパンティを下ろして、後ろから・・・ええ、バターとバターナイフみたい
にすんなりと」
「バター・・・」「ナイフ・・・」名雪さんとボクの言葉が重なる・・・。

「でも、エプロンとスカートは、つけてたのよ。あまりに恥ずかしいですもの、お台所でハダ
カなんて、ウフッ」
し、知らなかったよボク・・・。おパンツ脱いでも、エプロンとスカートはいてればセーフな
のか・・・。

「そのうち、お魚はこげちゃうし、ガスにかけていたお鍋はこぼれちゃいそうになるし・・・。
『ね、あなた。お鍋がふきこぼれちゃうから・・・待って、待って・・・』ってわたし、す
すり泣きながら言いましたけど、・・・あ、悲しくて泣いてたんじゃないの、あゆちゃん(に
こっ)」
すすり泣きって・・・うぐぅ。

「あの人、『もう、俺の鍋もふきこぼれちゃうよっ・・・秋子っ』って・・・お父さん、お鍋
といっしょにふきこぼれちゃったの、くすっ」あうあう・・・お父さん、オヤジギャグ・・・。

「わたしも、お鍋のふきこぼれと同時に幸せになったんですけど・・・われに帰ったとき、結
局、お料理はできずじまい。できたのは、意味もなく刻んだ葱3本と、こげたお魚とお鍋。そ
れに床はもう・・・あ、それは言わないでおきますっ・・・。と、とにかく、あとかたずけが
もう大変だったの、ウフフッ」

「お父さんとお母さんはこんなふうだったのよ・・・。どう、何かためになったかしら?」
秋子さんが、ボクたちに話しかける。
「え、えーと・・・ある意味、とてもためになったと思うよ。ボク」
秋子さん、『新婚さん、いらっしゃい』なお話をありがとうございました。ボク、将来出るこ
とになったら見習うよ・・・。絶対出ないと思うけど・・・。

「名雪は、どうかしら・・・?あら、名雪」
「・・・ぐすっ、ぐすん・・・お父さん、お母さん・・・」
うん、ボクも泣くよ。お母さんから、こんなお話しを聞いちゃったら・・・。

「ね、お母さん・・・くすん」
「なあに、名雪?」やさしい笑みを浮かべる秋子さん。
「お、お母さん・・・、わたし、『わたしがお腹にできたとき、お父さん、お母さんはどんな
ふうだったの?』って、質問したんだよ。それなのに、こんなお話するなんてっ、ぐすっ・・・」

「あら、名雪?わたしは『名雪がお腹にできたとき、お父さん、お母さんはこういうふうだっ
た』って話をしたつもりよ」
「え・・・?」
「だって、そのときお腹にできたのが、あなたなんだから」
「そ、そんなのって、ないよ・・・」
「あなたは、お父さんとお母さんがこの日に愛し合ってできた子なのよ、名雪」

「わ、わたし・・・そういう愛し合い方で、できたんだ・・・お台所で、できたんだ・・・」
「そうよ・・・あっ、お台所で、料理はできなかったけど、名雪ができたのね(にっこり)」
わあっ、秋子さん。その言葉は・・・。

「ぐすっ、ぐす・・・。わたし、お芋の煮転がしや、焼き魚や、鍋物のかわりにできた子なん
だ・・・」
ああっ、名雪さん・・・。
「わたし、お台所で晩御飯のかわりにできた子なんだね・・・うっ、うっ・・・うぇ〜ん・・・」

「うぐぅ・・・」そんなでき方、ボクも嫌・・・。



END


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